「好きなことだけで生きる」という誤報

 

「好きなことを仕事にする」

そうすれば幸せになれると思っている人は多いのではないでしょうか。

「好きなことを仕事にする、好きなことだけで生きていく」といった情報が、あたかも正しい生き方のように独り歩きし、盲目的になり、本質が見えないようになっているのこの頃です。

さて、本当に「好きなことだけ」で人は幸せになれるのでしょうか。

 

世の中「本当に好きなことだけで仕事している人」はどれだけいて、「本当に好きな仕事だけで稼いでいる人」はどれだけいるのでしょうか。

もちろん、好きな仕事だけで稼いでる人はいると思いますが、割合としてはとても少ないのでは。

ではそれ以外の大多数の人は、「好きなことで仕事していないから不幸せ」で、「好きでもない仕事で稼いでいるから不幸」なのでしょうか。

 

人生は、生きるということなんですよね。

生きるということは、お腹が減ったら食べること、寒かったら着ること、安全を守るために住むこと、病気になったら治すこと。

そう、生きていくためには、糧(お金)を作らなければいけない。

 

世の中のどれくらいの人が「好きなことだけ」で、その糧を作っているのでしょう。

世の中には、好きでもない仕事で稼いでいる人のほうが、圧倒的に多いのではないでしょうか。

また、好きだと思っていた仕事も、突如、嫌な仕事になることもあるでしょう。

 

「好き」だけを選択して生きていると、逆に「好きじゃなくなった」時にとても苦しい思いをすることもあります。

「好きなことだけで生きていく」というのは、「好きじゃなくなった時」というリスクも生まれるのです。

もし「好きなことだけで生きていく」ことが正しいと考えているなら、その時はまた好きなことを探し回らなければいけません。

 

人は、好きなことだけで人生の幅を広げ、人生の深みを作り、人生を謳歌しているわけではないのです。

好きでもない仕事をしていても、誰かと共感し、誰かと繋がり、誰かに優しい気持ちを持ち、誰かと分かち合うことができるのです。

好きでもない仕事をして帰ってきたとき、安全な家の中で、温かい布団で眠る子どもの姿を見て、この上なく幸せな気持ちになる親もいるのです。

好きでもない仕事から報酬を得て、そこから自分の人生を開拓し、自分を表現し、世界の広さ、自分らしさを知りうるのです。

 

好きでもない仕事をしてきたからこそ、もうそんな人生嫌だと、好きなことだけで生きていこうという気持ちが生まれるのかもしれません。

でも、きっと「好きなことだけで生きていく」と決めて、そう思って生きている人たちの素晴らしさや魅力は、好きでもないことを頑張ってきたから生まれてきたのかもしれません。(いや、きっとそうだと私は思うのです)

 

つまり、「好きなことだけで生きていく」「好きなことだけ仕事にする」というのは、とてももったいないんじゃないかと私は思うのです。

人生の幅が広がり、深みが出て、豊かな自分になっていくチャンスを自ら放棄している気がしてならないわけです。

そして「好きでもないこと」を避けていることで、自分の素敵な部分を半減させているとしたら、魅力を開発できていないとしたら、それはとてももったいないことだと思うのです。

 

好きな仕事ばかりを探し回る必要はないのです。

好きなことばかりで生きていく必要はないのです。

そんな切れ端のような情報に惑わされてはいけないのです。

 

人生はもっとダイナミックで、私たちの予想をはるかに超えることばかりです。

そのダイナミックさを、「好き」「嫌い」だけで判断してしまうのは、もったいないことなのです。

好きなことばかりを探し歩いて、新しい世界を見過ごしているとしたら、もったいないことなのですよ。

それはとても、もったいないことなのです。